生理は、女性が将来赤ちゃんを迎えるために、なくてはならないものです。
PMSや生理痛などの負担も、「いつかの赤ちゃんのため」と思って耐える方も多いのではないでしょうか。
しかし生理には費用がかかります。
ある企業の調査によると、女性がひと月の生理で費やす金額はおよそ750円。閉経までの累計では342,000円もかかると試算されました。薬代や医療費なども含めると、人によっては100万円近くなることも……。
最近では貧困家庭の増加にともない、“生理用品の確保“が深刻な問題になっています。
そこで名乗りをあげたのが、神奈川県。
試験的に導入された制度は、モデル校で大きな成果を上げました。
県立学校12校で女子トイレに生理用品を設置するモデル事業を実施
神奈川県は、県立の高等学校10校・県立の特別支援学校高等部2校に対して、「女子トイレに生理用品を設置する」というモデル事業を実施しました。
県立学校で「生理用品の提供」がおこなわれたのは、今回が初めてではありません。突然の生理に困った生徒に対して、保健室で生理用品を渡すことはあったのですが、よりニーズに即した場所は“保健室”ではなく“女子トイレ”だと判断したのです。
令和3年6月1日から8月31日までの3か月間の試験的な取り組みについて、詳しく見ていきましょう。
活動内容の周知
まずはモデル校の生徒や保護者に対して、本活動への理解を得られるよう、さまざまな方法で周知しました。
たとえば生徒には、ホームルームのときに担任から話をしたり、校内にポスターを掲示したり、メール配信で理解を呼び掛けたりしました。一方保護者には、書面に記して交付。生徒だけではなく保護者からも理解を得ることで、実験・検証への下地をつくりあげていったのです。
生理用品の設置場所
生理用品を設置したのは、洗面台などの共用部分です。それぞれに生理用品を20~30個入れた箱を置き、必要な生徒が、必要な分だけ自由に取れる仕組みになっています。
無償提供された生理用品の数
この取り組みで配布された生理用品の数は、トータルでおよそ85,8800個。1校ごとの内訳で見ると、高等学校は約7,800個、特別支援学校は約3,900個となっています。
調査に協力した12校
今回、モデル校として協力したのは以下の12校です。
■県立高等学校:10校
二俣川看護福祉、大師、白山、横須賀大津、横浜緑ケ丘、茅ケ崎、厚木東、伊勢原、平塚農商、山北
■県立特別支援学校高等部:2校
茅ケ崎養護、藤沢養護
生理用品の補充方法
生理用品の補充は、校内の人員でおこないます。トイレ掃除の当番や、保健委員、時には教員も担当しました。
活動内容の検証
この取り組みの効果は、随時検証されました。たとえば設置した生理用品の利用状況を把握したり、生徒へアンケート調査をおこなったりするなど。その調査結果は以下の通りです。
■生理用品の利用状況
県立の高等学校では、1日あたり10個程度の消費でした。一方、特別支援学校では、1日あたり2個程度の消費でした。
■生徒へのアンケート調査
事前におこなったアンケート調査では、およそ80%の生徒が「生理用品がなくて困ったことがある」と回答。さらに「生理用品を買うためにアルバイトをした」と回答した数は全体の4%にも及び、生理用品の確保に対する問題が浮き彫りになりました。
トイレに生理用品を設置した後に再度アンケートをおこなうと、「安心して学校に来られるようになった」「あると助かる」など支持多数。生理用品がないことに慌てて授業中に外へ買いに行く生徒もいたため、学習に集中しやすい環境づくりにも役立つとされています。
10月より神奈川の全県立学校に生理用品配備が決定
モデル事業は、予定通りの日程で終了しました。
実験的な試みでしたが、その効果は歴然。
神奈川県教育委員会は、令和3年10月から、すべての県立学校の女子トイレに生理用品を配備するよう正式決定しました。モデル事業終了からわずか1か月半での判断に、その効果の高さがうかがえます。
また生理用品の設置は、学校だけに留まりません。
「生理の貧困」の解消を目指し、県の施設や機関などにも常備する方針を示しています。
さらに、県の施設において“生理用品を無償で渡します”というイベントも企画されました。配布単位は、「昼用」「夜用」をそれぞれ1パックずつ。予約不要ということもあり、女性たちの注目を浴びました。
まとめ
PMS、PMDD、生理痛……。毎月不調と戦う女性に、神奈川県が先立って救いの手を差し伸べました。社会問題化している「生理の貧困」の対策としてはもちろん、突然生理が来たときにも慌てなくて済むので女性たちに大きな安心をもたらしてくれるでしょう。
県立学校をモデルとした事業は、大きな成功に終わりました。その成果を受けて、正式導入をはじめ、県内の施設や機関にも無償設置が検討されています。さらに現在では、市と民間企業が連携して、コンビニエンスストアや駅などにも設置をするのはどうかなど、たくさんの案が出されています。
言いたくてもなかなか言いにくい、生理のこと。周囲のサポートがあるだけで、心身ともに少し負担が緩和するのではないでしょうか。
神奈川県を発端とした取り組みが、全国まで広がりを見せるのも時間の問題でしょう。トイレットペーパーのように、生理用品が全国のトイレに常備される日は近いかもしれません。